1.大きなきっかけ

婚約破棄は、大きなきっかけではあった
けれども、自分自身の葛藤はそれより
前から始まっていた。

 

新卒でメーカー系ITベンダーへ入社し、
開発部へ配属された。
開発部とはその名の通り、自社のソフト
ウェアパッケージを開発する部署であり、
否応なく、技術と深く向き合うことに
なった。

 

大学ではテクノロジー系の勉強を全く
していなかったこともあり、戸惑いは
大きかった。
少しずつ慣れていったけれども、この時
コーディングがどうしても好きになれず、
一時は、オフィスの窓の外を見ながら
涙が出てくるようなくらい精神的に
参っていた。

 

その後希望して、より顧客に対面する
仕事へ異動し、やりたいことが少し
見えてきたけれども、この業界の
雰囲気に違和感がずっとあった。
技術を極めた者が絶対的な力を握って
いるような、技術以外はそれほど重視
されていないような、そんな雰囲気に
反発する思いもあった。

 

自分自身はというと、周りからは
しっかり者で、はっきりものを言い、
自分のことをきちんと管理できて
いると思われていたと思うけれども、
実際、精神的にかなり交際相手に
依存していた。

何かあれば電話して話を聞いてもらい、
夜遅くでも愚痴や弱音をぶちまけて
なだめてもらい、わがままを言い、
出かける約束をしている日でも
寝坊してよく遅れ、機嫌が悪ければ
八つ当たりし、それでも愛情を向けて
くれていた。
いつも絶対に味方でいてくれた。

もちろん私も大切に思っていたし、
それはちゃんと伝わっていたと思う。

彼が会社から海外転勤を言い渡された
ことで、結婚の話が持ち上がった。
これまでも何度か話はあったけれども、
私はまだ準備できていないと言って、
半ばはぐらかしていた。

私は、結婚できる状態に無かった。
貯金もロクにしていなかったし、
何より、このままこの人と結婚したら、
きっとこれまでのように私の言うことを
聞いてくれて、私は何も成長しない人間
のまま人生を終える、という確信に近い
思いがあった。


精神的に未熟で、自分をコントロールする
ことに苦労していた。

 

転職も経験し、仕事のおもしろさや
やりがいも少しずつ感じながらも、
まだやはり今後のキャリアについて
悩みを抱えながら、この先どうすれば
よいのかわからず、もがいていた。
自分にはもっといろんな面があるのに、
この1つの仕事ではそれらが出せて
いない、という窮屈さや不完全燃焼
のような感覚がずっと心にあった。


また、その時勤務していた2社目の
会社では、当時海外はアメリカしか
拠点がなく、結婚して転勤に付いて
いくということは、自分の成果を
はっきりと出す前に仕事を辞め
なければならないということだった。


離れたくはないけど、一緒に行く決断が
100%できない、という葛藤を抱え
ながら準備を進めていったが、私の
その気持ちや私自身も苦しんでいる
様子が伝わり、相手を傷つけ、
結局数か月後に破局となった。
もう式の準備はほぼ終えている
段階だった。

Artist -12年の記録-はじめに


2022年にこれを書き始めているので、
12年が経過したことになる。
12年前の2009年に婚約破棄となり、
長く付き合っていた相手と別れ、
そこから本当の意味で、自分で自分を
育てていく長い道のりが始まった。

 

仕事、スキル、生活など様々なことが
大きく変化した12年だったけれども、

その中で私は自分に素直になり、自分を
慰めたり、褒めたりすることができる
ようになった。

以前のように、周りや周りからの影響に
反応する度合いが減り、地に足をつけて、

自分の感覚を信じて前に進めている
気がする。
何より直感がさらに鋭くなり、大体は
それが当たっていた。

 

加えて、自分の中のクリエイティブな
特性を認識して、活かせるようになった。

長くIT業界で働いてきたけれども、
仕事においてその創造性を活かすこと
ができ、それで社内外の人に喜んで
もらえる体験をしてきた。

気づくと、経済的な自立、
発展へとつながっていった。

 

その中で知った様々な事柄が、
今何かしらキャリア上の悩みや、
今後の進む道が見えなかったり、
変わりたいけれどもどうしてよいのか
わからない、といった葛藤などを
抱えている人の役に立てばと思い、
文章化することに決めた。